研究概要 |
本研究の目的は,動作分析法を用いて高齢者の歩行における力学的エネルギー利用の有効性について検討し,(1)その決定要因をバイオメカニクス的に明らかにすること,(2)エネルギー論的観点から高齢者の歩行能力評価の可能性を探ることである.61〜86歳の健康な高齢男性25名(74.5±6.7歳)と22〜28歳の健康な青年男性12名(24.5±1.8歳)に歩行路上で4種類の速度での歩行(自由歩行,緩歩,速歩,最速歩行)を行わせ,側方から高速度VTRカメラで撮影を行なった.また,歩行路に埋設したフォースプラットフォームを用いて歩行中の支持脚に作用する地面反力を測定した実験により得られたVTR画像を画像処理ボードを介してパソコンに転送し,ディジタイズにより矢状面における身体各部の2次元座標を算出した.身体を剛体リンクモデルにおき,身体各部の座標値と地面反力データより逆動力学解祈法をもちいて,下肢のキネティクス変数を算出した.本研究から得られた主な結果は以下の通りである. 1.高齢者と青年では総仕事に占める各関節の仕事の割合(貢献度)が異なっていた.高齢者では青年よりも正仕事における足関節の貢献度が小さく,股関節の貢献度が大きかった.また,負仕事における足関節の貢献度が小さく,膝関節の貢献度が大きかった. 2.力学的エネルギー利用の有効性は歩行速度の増加にともない低下したが,同程度の歩行速度では高齢者が青年よりも小さかった. 以上のことから,同じ歩行速度での歩行においても高齢者と青年では下肢関節の貢献度が異なることが示された.また,高齢者では同速度の歩行における力学的エネルギー利用の有効性が青年より低いことから,下肢関節の貢献度や力学的エネルギー利用の有効性からみた歩行の老化度評価の可能性が示唆された.
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