研究概要 |
2002年夏季,中国寧夏回族自治区を訪問し,資料収集とフィールドワークに従事した。寧夏社会科学院,寧夏大学,西北第二民族学院などにおいて,中国西北地方の回族の生活様式や宗教信仰に関する資料を収集した。そして,寧夏社会科学院の研究者の協力のもと,自治区南部の海原県海城鎮山門村を調査村として選出し,フィールドワークを行った。 調査地域においては,第一に,海原県政府の外事辧公室,民政局,宗教局,統計局などの諸機関を訪問し,統計資料を収集するとともに,基本的な社会状況についての聞き取りを行った。さらに,調査地域の経済状況,生活文化を理解するために,市場,農家,村民委員会などを訪問し,資料収集と聞き取りを行った。加えて,調査地域の回族のイスラーム信仰の実態を理解するために,モスク(清真寺),聖者廟,および宗教指導者の活動施設である「道堂daodang」を訪問し,聞き取りを行った。 2003年度は,中国においてSARS(重症急性呼吸器症候群)の集団発生があり,外務省の渡航延期勧告が発表されたため,中国を訪問しフィールドワークを行うことができず,文献資料の収集・分析を主に行った。 研究結果として,以下が明らかとなった。 中国西北地方の農山村地域の回族コミュニティにおいては,農業経営に関して,各自の集落の耕地を自作している世帯がほとんどで,かつ経営規模は小さい。また,兼業を行っている世帯は少なく,兼業を行っている場合も,就業地域は集落周辺がほとんどで,就業期間も年間1〜2ヶ月間と短い。ここから,経済活動に関しては,住民の行動圏は狭く,県政府の位置する街までの3km程度である。他方,モスクでの集団礼拝,イスラーム教育,聖者廟への参詣などの宗教活動は,近年活性化してきており,またその行動圏も広い。聖者廟参詣においては片道150km以上の移動も行われている。
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