研究概要 |
フェニルプロパノイド類は植物の二次代謝産物であるが、食品の色・味といった嗜好性に大きく関与しているだけでなく、抗酸化作用を有していることから、機能性成分としても大いに期待されている。昨年度はコーヒー豆に多く含まれるクロロゲン酸につき、ラットとモルモットの肝臓と小腸によるin vitro代謝および加熱による変化について検討した。その結果、(1)加水分解産物であるカフェ酸の生成量に種差があること、(2)このような動物組織による変化と加熱による変化が質的にも量的にもかなり異なることが明らかとなった。そこで本年度もクロロゲン酸を中心とし、in vivo代謝、特に、血中代謝物の検索を行った。ラットにクロログン酸を300mg/kg体重の用量での経口投与した後、投与後30分間、1時間、2時間および4時間にラット頸動脈より採血し、血漿中のクロロゲン酸および代謝物をHPLCにより調べた。その結果,未変化体のクロロゲン酸および加水分解産物であるカフェ酸をはじめ、代謝物と思われるピークは全く検出されなかった。しかしながら、吸収されたクロロゲン酸や代謝物は小腸で直ちにグルクロン酸抱合体や硫酸抱合体に変換されている可能性があるため、β-グルコシダーゼやスルファターゼによる抱合体の加水分解を試みた。しかしながら、クロロゲン酸や代謝物のピークは検出されるに至らなかった。以上の結果から、クロロゲン酸は小腸からほとんど吸収されていないことが示唆された。 さらに、代謝機構を明らかにするため、市販品のエステラーゼ(ブタ肝臓由来)および市販品のクロロゲン酸エステラーゼ5%含有酵素剤(Aspergillus japonicus由来:Kikkoman社製)によるクロロゲン酸のin vitro代謝を調べた。まず、ブタ肝エステラーゼを20〜2000units用いて37℃、60分間反応を行ったところ、加水分解活性は非常に弱いものの、いずれの濃度においてもごくわずかのカフェ酸が生成された。一方、クロロゲン酸エステラーゼ含有酵素剤は強い加水分解活性を示した。代謝物としてはカフェ酸のピークのみが検出された。 以上の結果から、ラット、モルモットおよびブタ肝のエステラーゼは、カフェ酸の生成活性が比較的低いこと、カフェ酸以外の代謝物も生成されることがよく類似していた。ところが、麹カビ由来のエステラーゼではカフェ酸の生成活性が非常に強いだけではなくカフエ酸のみを生成するといった相違点が観察された。このような代謝の違いが何によるのかは今後の課題であろう。
|