研究概要 |
本研究は,大分大学教育福祉科学部の美術コースの学生が1999年9月から行っている国立療養所西別府病院筋ジストロフィー病棟での絵画教室ボランティアにおける教材開発を目的としたものである。そこでは,筋ジストロフィーの患者さんが健常者と同じように,あらゆる教材に自由に生き生きと取り組むことができるような造形環境を設計・デザインすることを目標とした。 本研究の実績は次の3つである。1.筋ジストロフィーの患者さんのためのハード教材:「描画製作ボード」の開発,2.筋ジストロフィーの患者さんのためのソフト教材:「教材メニュー」の開発,3.「造形・美術ボランティア」概念の定義。 1の「描画製作ボード」は,患者さんの描画活動を支援する補助具である。患者さん各々の興味関心に対応できるよう,描画以外の造形活動にも使える多目的装置として開発した。その結果,患者さんの製作への意欲及び能力を高め,リハビリテーションにも寄与することができた。また,大分県産の材料を使い,県内の中小企業で製作することを目指したため,地域社会・経済に資する大学及び造形・美術の在り方を示すことにもなった。2の「教材メニュー」は,患者さん用の造形・美術の教科書に相当する。患者さんの心身の状態に適した教材を開発し,カリキュラム化した。3では,絵画教室ボランティアの実践を手掛かりにして,造形・美術の内容に関するボランティアを定義した。 その他,(1)従来に比べて描画補助具が安価に製作できるようになったこと,(2)補助具及び教材メニューの提示によって,患者さんの造形活動に対する意欲が増し「生きる力」に繋がったことなども,成果と認められる。さらに,(3)卒業・修了後,ボランティアを経験した多くの学生が養護学校教諭に採用されていることも,大学におけるボランティア経験の機会を提供した本研究の結果と考えられる。
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