研究概要 |
申請者らは1999年、「スライドレジスタ割付問題の厳密解法」(情報処理学会論文誌)において、スライドレジスタ割付問題が特殊な距離関数の巡回セールスチーム問題であることを論理的に証明した。巡回セールスチーム問題はNP困難な問題であり、厳密解を求めるためには非常に多くの計算時間を要するが、申請者は当該論文刊行後、スライドレジスタ割付問題の緩和問題が多項式時間で解決可能(すなわちクラスP問題)であるという着想を得た。平成14年度ではスライドレジスタ割付問題の特殊形であるローテイトレジスタ割付問題が多項式時間で解決可能であるという未出版の着想について、論文化のための準備を進めてきた。 平成15年度は、(1)ローテイトレジスタ割付問題の多項式時間解決可能性(クラスP解放の存在性)について、計算量解析などの分野における専門学会であるオペレーション・リサーチ学会で証明を行うことができた。この学会における議論をもとに必要な修正を加え、引き続き論文化を進める予定である。(2)条件分岐を含むループのソフトウェア・パイプライニングにおいてローテイトレジスタ割付問題が同様にクラスPであるか否かの証明については、結論には至らなかった。その場合に行なうとしていた巡回セールスチーム問題の緩和問題を利用したクラスPの近似解法の実装からは、条件分岐を含むループのレジスタ割付が多項式時間解決可能であることを示唆し得る新たな制約条件を発見できた。完全な証明は(1)に比し困難を伴うと考えられるが,この性質はレジスタ改名機構の性質解明に大きく寄与すると考えられ、引き続き解析を進める予定である。 証明の直接の効果ではないが、研究したアルゴリズムは、組み込みプロセッサにおけるソフトウェア・パイプライニングなど実際のコードにも役立てることができた。
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