研究概要 |
本研究の目的は,工学的問題解決における人間の負担軽減のため,人間だけが有する特異な能力であるところの"創造性"を計算機上に実現することである. まず,これまでに哲学や認知科学の分野において行われてきた研究に基づき,創造性に関する理論の数理化を行った.それらによれば,人間の創造性は二つの異なる思考過程の相互作用の結果であり,概念空間という思考空間上の二種類の変換として表現できる.これを,代数的記号論を用いた数理化を行った.すなわち,概念空間を記号系として表現し,この上の二種類の変換を記号的射として記述した. 問題解決における創造性の役割は,新規な解の創出によって特徴付けられる.この目的のため,創発的計算手法についてこれまでも研究をすすめてきた.創発現象は生物の様々なレベルにおいて観測することができるため,進化や学習といった生物の適応手法に倣った計算手法が基礎的計算法として利用されてきたが,その理論的背景は十分ではなかった.本研究による創造的思考の数学モデルにより,理論的な裏付けを与えるとともに,目的に合致するように創発的計算手法を構成するための方法論が示されたと言える. これに基づき,共進化型の遺伝的アルゴリズムを構成した.このアルゴリズムでは,従来は人間が試行錯誤で行ってきた解候補から遺伝子への符号化を,解の探索過程において同時に探索を行う.これを典型的な組み合わせ最適化問題である騙し問題に適用し,人間が符号化を行った場合の単純遺伝的アルゴリズムに比べても良好な結果を得た. また,同様にモジュール型の強化学習を構成し,これを従来は試行錯誤,すなわち人間の創造性に任されてきた4足ロボットの歩行軌道獲得問題に適用し,良好な結果を得た.
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