研究概要 |
荷電交換再結合反応は、X線レーザーを実現する手法の一つとして古くから研究が進められてきた。しかしながら、多価イオンと中性原子との衝突による荷電交換を効率よく起こさせるには、これまでにない非平衡性の強いプラズマが必要となる。本研究では超短パルスレーザー・クラスター相互作用によって生成されるクラスタープラズマに着目し、荷電交換再結合反応によるX線レーザーの可能性を数値計算、および、実験により調査した。特に注目した荷電交換反応は、N^<7+>+He->N^<6+>(n=4)+He^+,N^<6+>+He->N^<5+>(n=4)+He^+であり、期待される発振波長は、N^<6+>では2.0nm(n=1s-4p),9.9nm(n=2p-4d)、N^<5+>では2.4nm(n=1s-4p),13nm(n=2p-4d)である。以下に本研究で明らかになった結果を示す。 1.上記の荷電交換再結合反応を含む時間発展型の衝突輻射モデルを構築し、プラズマ中での励起準位密度の数値計算を行った。その結果、Te=40eV, ne=1x10^<19>cm^<-3>のプラズマが実現できれば発振線9.9nmでは利得係数g=28、2.0nmではg=6という値が達成できることが判明した。 2.ファンデルワールス窒素クラスタービーム源を開発し、その特性を高速電離真空計にて調べた。特にクラスター生成効率はノズルの形状に大きく左右されるため、数種類のコニカル型ノズルを制作し、その影響を調べた。また、ヘリウム希釈により大きなクラスターが形成されるため、この影響も調査した。その結果、コニカル型ノズルを用い、ヘリウム希釈アルゴンガスを断熱自由膨張させるとクラスターが中心部に局在する分布を持つということが判明した。 3.窒素・ヘリウム混合ガスに超短パルスレーザー(Ti:S,60fs,3x10^<16>W/cm^2)を照射する実験を行い、プラズマからの発光を斜入射分光器にて観測した。その結果、コニカル型ではクラスターが逆制動放射、共鳴吸収によりレーザーを効率よく吸収し、高温・高密度のクラスタープラズマとなることが判明した。さらに、X線ストリークカメラを用いた測定により発光スペクトルの時間分解測定を行ったところ、クラスタープラズマの膨張に関する新たな知見を得ることができた。しかしながら、一連の実験により顕著な反転分布の形成は実現できなかった。この理由として考えられるのは、レーザー強度が高すぎてヘリウムもイオン化している、あるいは、反転分布の時間スケールがサブピコ秒のオーダーであることが挙げられる。今後レーザー強度の最適化を行い、反転分布形成を試みる。
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