研究概要 |
代表者らは、産業廃棄物の焼却処理により発生する焼却灰(飛灰および残さ)を対象とし、そのキャラクタリゼーションに関する研究を行っている。その結果、産業廃棄物焼却灰中にはCu, Zn, Sb, Pbなど、工業的利用度の高い元素が高濃度に含まれており、特に揮発性元素については飛灰により濃縮されていることなどを明らかにしてきた。本年度は、特に貴金属元素に着目し、その廃棄物焼却灰中存在度を明らかにするとともに、起源の異なる他の焼却灰と比較を行い、その特徴を明らかにすることを目的とした。 試料は、焼却物および燃焼方式の異なる3種類の産業廃棄物焼却炉から採取した、飛灰および残さを用いた。焼却灰試料は酸分解により溶液化し、テルル共沈法により貴金属元素を分離・濃縮した。貴金属元素の測定には、ICP質量分析装置を用いた。 本法の検出限界は、試料中数10ng g^<-1>レベルであり、産業廃棄物中貴金属元素の定量に十分なものであった。産業廃棄物焼却灰では、いずれの試料においても、主に触媒に使用されるRh, Pd, Pt、および電極としての利用度の高いAuの濃度がμg g^<-1>からサブμg g^<-1>レベルであり、貴金属元素の地殻中存在度(ng g^<-1>レベル)と比較して、1桁から2桁高濃度であることがわかった。また、Ru, Irの濃度は地殻中存在度とほぼ同レベルであった。一方、比較のために分析した石炭、石炭飛灰および都市ごみ焼却灰中貴金属元素の濃度は、都市ごみ焼却灰においてAuが若干高濃度である以外は地殻中存在度と同レベルであり、これらの結果は、焼却灰中貴金属元素が、人間活動の指標元素として利用できることを示している。次に、貴金属類元素の濃縮度について、地殻からの濃縮係数を算出して評価したところ、産業廃棄物焼却灰には、Pd, Ptが100倍以上、Auが10-100倍濃縮されていることが明らかとなった。また、産業廃棄物焼却灰中貴金属元素の濃度は、貴金属鉱物に匹敵するものであり、産業廃棄物焼却灰からの資源回収の可能性を示唆するものであった。
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