研究概要 |
我々は初期胚発生メカニズムの解明に利用できる阻害剤の開発を目的として,棘皮動物の胚発生を特異的段階で選択的に阻害する物質の探索を行なっている。今回,奄美大島産の海綿Monotria japonicaのメタノール抽出物が,イトマキヒトデ未成熟卵の細胞質を溶解するが卵核胞(細胞核)には影響を与えないことを見出した。この活性を指標として,活性物質の分画・精製を行った結果,monotriajaponide A(1)と命名した新規α,β,γ,δ-不飽和カルボン酸とmonotriajaponides B-D(2-4)と命名した新規環状過酸化物が,既知の環状過酸化物(5)及びα,β-不飽和エステル(6)とともに単離された。これらの化合物の構造は各種スペクトルデータを解析することにより決定し,また化合物2-4のdioxane部分の絶対配置は差NOE及び改良MTPA法を用いることにより3R,4R,6Sと決定した。 化合物1-5はそれぞれ50,6.3,6.3,6.3及び13μg/mLでイトマキヒトデの未成熟卵の細胞質を溶解したが,100μg/mLでも卵核胞には全く影響を及ぼさなかった。一方,化合物6は25μg/mL以上の濃度で細胞質及び卵核胞の双方を溶解した。また,化合物1-5のメチルエステル誘導体および化合物3,4のdiol誘導体では100μg/mLでも全く活性を示さなかった。このことから,特異的な発生の発現にはdioxane構造ならびにカルボン酸構造が重要であることが明らかとなった。 次に,化合物3および4を用いて,イトマキヒトデ胚の核構造への影響を調べた。イトマキヒトデの未受精卵を核染色蛍光色素Hoechst33342で染色した後,受精させ,二細胞期まで発生させたところで化合物3および4で処理したところ,6.3μg/mL以上の濃度でイトマキヒトデ胚の発生はただちに停止し,細胞質は溶解したが,核の構造には全く変化がなく,鮮やかな蛍光を呈していた。このことから,monotriajaponides C(3)およびD(4)は核に影響を及ぼさない細胞溶解試薬とみなすことができる。
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