研究概要 |
ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PIPAAm)を主鎖した温度応答性高分子に疎水性高分子鎖にポリ(D,L-ラクチド)(PLA),ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)および共重合体P(LA-CL)をそれぞれ連結したAB型のブロックコポリマーを合成した。このとき、IPAAmに親水性モノマーであるN,N-ジメチルアクリルアミドを共重合することで、生体の体温よりもやや高い約40℃に相転移温度(LCST)を持ち、局所ハイパーサーミアとの併用が可能な分子設計を行った。疎水性度およびガラス転移温度(Tg)が異なるこれらの疎水的内核をもつ高分子ミセルを用いて、薬物の内包率、ミセル外殻の相転移による疎水的内核への影響、温度に応答した薬物の放出挙動について検討した。その結果、Tgとミセル外殻のLCSTの関係が極めて重要であることが示された。すなわち、Tg(50℃)>LCST(40℃)であるPLA系ミセルは外殻の相転移による影響を受けないために5日で60%の薬物を放出するにとどまったが、Tg(-20℃)<LCST(40℃)であるP(LA-CL)系ミセルでは、外殻の相転移により内核に歪みが生じるために、24時間で約90%の薬物を迅速に放出することが明らかとなった。一方、PCL系ミセルはTgがLCSTよりも低いが、内核の疎水性が高いために薬物を効率よく放出することができないことが分かった。以上の結果より、疎水的内核を構成する疎水性高分子の物理化学的性質を考慮することで、薬物の内包率や温度に応答性した薬物放出速度を自由に制御できることが本研究により示された。
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