研究概要 |
本年度は,昨年度に世界に先駆けて開発した血液適合性評価試験回路を用いて複数種類の材料の抗血栓性比較評価を行った.具体的には,2つの同一試験回路を用意し,拍動駆動ポンプ以外の回路構成要素をすべてMPCというリン脂質の極性基をするポリマーでコーティングした.拍動ポンプのみを試験対象とし,まず一方をMPCポリマー,他方をミラクトランというセグメント化ポリウレタンでコーティングした.なお,ヘパリン化してACTを380secに調整した同一固体から採取した新鮮ブタ血液を2回路に循環させて,大動脈圧は120/80mmHg,左心房圧は10/0mmHgのもとで平均流量が4.5L/min及び3.0L/minの条件でそれぞれ実験を1時間行った.走査型電子顕微鏡で表面を観察した結果,平均血流量が4.5L/min,3.0L/minのどちらの条件でも,ミラクトランポンプ表面では血小板が活性化し,またフィブリン網が発達していた.一方,MPCポンプ表面には血球成分が付着しておらず,拍動流下のさらに動的に座屈変形するダイアフラム部分でも優れた抗血栓性を有することが判明した.そこでさらに,MPCと米国で人工心臓に用いられて一年以上の臨床成績のあるBiospanという抗血栓性材料同士でACTを280secにして3時間の比較試験を行った.その結果,材料表面に付着した血小板数は同程度であったが,材料表面に付着した血漿タンパク質を金コロイド標識免疫法で詳細に調べたところ,血小板の吸着・血栓形成を促進させるフィブリノーゲン,免疫グロブリンは,Biospanの方がMPCに比べて多く付着していることが明らかとなった.以上より,本回路は動物実験に使う前に材料及び循環器系デバイスの血液適合性をスクリーニングする装置として極めて有用であると同時に,動物実験の一部を代替するシステムとして倫理面にも配慮できると考えられた.
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