研究実績の概要 |
有機フッ素化合物(PFC)は環境中の野生生物やヒトに広く蓄積している。血液胎盤関門を通過することから,児への健康影響が懸念される。PFOSやPFOAはストックホルム条約や自主的削減により使用量が減少しているが,近年はより炭素鎖の長い代替物質が使用されている。動物実験では,ラットでPFOSの胎児期曝露が心室中隔欠損症や右心房の膨張を引き起こし,その毒性は炭素鎖が長くなるほど大きいことが報告された。しかし,ヒトでの研究はほとんどない。そこで本研究は,①胎児期のPFC曝露による先天性心奇形発症への影響,②PFC曝露による先天性心奇形発症とPPAR遺伝子多型の関連,を明らかにすることを目的とした。 本研究は,北海道スタディ大規模コホートに参加する母児を対象に,心奇形145人についてコントロールと1:2でマッチしたコホート内症例対照研究とした。PFCは妊娠28-32週の母体血漿中PFOS,PFOA,PFNA,PFDA,PFUnDA,PFDoDA,PFTrDA,PFTeDA,PFHxS,PFHxAとPFHpAの11化合物をUPLC-MS/MSで分析した。内部標準を血漿サンプルに加え,アセトニトリル2mLを加えて攪拌遠心分離を行い,上清に酢酸を加えて混和した後に,再び遠心分離により得た上清を乾固し,0.25mLのメタノールを加えて機器分析用試料とした。検量線は0.1~10ng/mLの標準試薬7濃度を用いて作成した。目的とする化合物のピーク面積/内部標準面積と,標準試薬/内部標準試薬の面積比により定量した。回収率と変動率は低濃度を添加したサンプル5回反復測定で確認した。機器検出下限値は,シグナルとノイズ比3以上で求めた。測定機関間の差はNIST標準物質SRM1957により評価し,分析値は妥当であると判断した。 全435検体の分析を終了した。7化合物は90%以上,PFHxSは80%以上の検出率だった。PFHxA, PFHpA, PFTeDAの検出率は80%以下だった。現在,PFC曝露による先天性心奇形の発症リスクについてデータ解析を実施しており,平成28年夏までに論文を投稿する。
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