今年度は,研究1で得られた結果や調査の状況を踏まえて研究計画を修正し,研究2と研究3を統合する形で研究を遂行した。すなわち,自己変容を予期することが青年のアイデンティティ形成にどのように影響しているかについて,質問紙調査【1】と質問紙調査を用いた実験【2】から検討を行った。また,中学生と高校生と大学生のデータを合わせて発達的変化を検討した【3】。さらに,これまで得られた知見を統合して,自己変容の予期に伴う葛藤の可視化とリフレクション効果を検証するための,ワークシートの作成に取り組んだ。 【1】の調査対象者は大学生393名であった。独立変数を自己変容に関する変数,従属変数をアイデンティティ形成としてパス解析を行った。分析の結果,理想の自分に変わりたいという気持ちではなく,変わるためのイメージや計画性を持っていることがアイデンティティ形成に寄与することが明らかにされた。 【2】の調査は同一対象者に対して2回行われ,ランダムに3群に割り当てられた。分析に使用した対象者は,大学生230名であった。分析の結果,理想自己への変容のイメージと計画性が,アイデンティティ形成を促進しており,【1】の結果が再現された。 【3】の調査対象者は,中学生433名,高校生597名,大学生393名であった(大学生のデータは【1】と同一である)。分析の結果,青年期の発達過程において,理想自己への変容を望む気持ちが顕著になることが示唆された。 これまでの研究成果を,教育現場に役立てるツールとして,ワークシートを作成した。ワークシートの構造は,「1. 変えたい部分を具体的にする」,「2. 自分の中の葛藤を理解する」,「3. 理想を見つけ,方針を考える」という三つのステップに分かれている。このワークシートは,アイデンティティ形成や将来展望の促進を目的とした教育活動の際に使用することができる。
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