作物の生長と収量を低下させる塩ストレスへの耐性向上に向けて、耐塩性イネ科牧草ローズグラスの葉表皮上に散在するイネ科型(二細胞性)塩腺による体内の過剰塩分の排出機構の解明が求められる。 二細胞性塩腺の基部細胞の内部には発達した膜構造が観察され、この構造は細胞膜が陥入したような形状になっており、その内側はアポプラストとなっていると考えられる。このような膜構造が細胞内に広がることで、塩腺細胞はその表面積を拡大し,細胞内⇔細胞外の輸送効率を高めていると考えられ、またこの膜上には能動輸送を行うためのイオン輸送体が多く局在していると予想される。 本研究では、基部細胞内部の特殊な膜構造の由来や形成過程を把握するために、細胞膜の特異染色に用いられる燐タングステン酸-クロム酸染色を施した切片をTEMで観察し、基部細胞内の特殊な膜が特異的に染まる結果を得た。基部細胞内部の特殊な膜構造が小胞体ではなく細胞膜に由来する構造である可能性が高いことが確かめられたので、細胞膜局在性のH+-ATPase抗体を用いて免疫TEMを試みる予定であったが、特別研究員を辞退したために実施に至らなかった。 この他、ローズグラスの塩腺細胞の成熟過程を調査した。これまでの観察では完全展開から1週間後の葉における成熟した塩腺を用いてきたが、完全展開直後の葉において既に塩腺を特徴付ける細胞内構造が大まかに整っていることを明らかにした。また、展開中の葉においては、塩腺細胞の外形(細胞の大きさと形状)が完成している一方で、基部細胞内部の特殊な膜構造は長さが短くて密度も低いことから発達途中であることが明らかとなった。今後、より未熟な段階の塩腺の細胞内構造を観察することで、基部細胞内部の特殊な膜構造の形成過程が明らかになると期待される。 なお、本成果は日本植物形態学会第26回総会・大会における発表でポスター賞を授与された。
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