研究実績の概要 |
申請者は本年度までに、ARAP3が高浸潤性乳癌細胞に高発現しているArf6 GAPであり、癌細胞浸潤転移に必須の分子であることを明らかにした。ARAP3は上皮増殖因子(EGF)刺激依存的な浸潤仮足形成に必要であり、浸潤仮足形成初期に重要な細胞膜表面への上皮増殖因子受容体(EGFR)のリサイクリングを正に制御することを明らかにした。さらに、ARAP3ノックダウン細胞ではEGFR陽性エンドソーム膜にイノシトールリン脂質であるPI(4,5)P2が蓄積していることを明らかにした。 これらの結果を踏まえて今年度は、ARAP3がどのようにEGFR陽性エンドソームのPI(4,5)P2量を調節し、EGFRの細胞膜へのリサイクリングを正に制御するのか、その詳細な分子メカニズムの解明を目指し、次の三つの結果を得た。(1)ARAP3はリサイクリングを促進する分子EHD1をEGFR陽性エンドソームにリクルートするのに必要である。(2)ARAP3はそのArf GAP活性依存的にEGFR陽性エンドソームのPI(4,5)P2量を負に制御する。(3)ARAP3は活性型Arf6のエフェクター分子として知られるPI(4,5)P2産生酵素PIP5K1A活性を負に制御することで浸潤仮足形成を促進する。 以上の結果から、ARAP3はEGFR陽性エンドソームにおいてPIP5K1Aの活性を負に制御することでPI(4,5)P2の過剰産生を防ぎ、その結果EHD1がEGFR陽性エンドソームにリクルートされて、EGFRが浸潤仮足形成予定部位にリサイクリングされることが示唆された。これらのことからARAP3は、Arf6活性サイクル制御を介してPIP5K1A活性を時空間的に調節し、細胞膜表面へのEGFRのリサイクリングを正に制御することで、浸潤仮足形成を促進することが明らかとなった。本研究結果は現在論文投稿中である。
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