前年度より引き続き、スクリューボール・コメディを代表する映画監督プレストン・スタージェスの作家論的研究を行い、その成果を以下の2点にまとめた。
I.『モーガンズ・クリークの奇跡』と『凱旋の英雄万歳』を中心に論じた論文"The Most Vociferous Screwball Comedies: The Miracle of Morgan's Creek and Hail the Conquering Hero."を査読制映画学術批評電子ジャーナルCineMagaziNet! No. 19に発表した。本論文では、両作品がスタージェス作品の中でも際立って騒々しい独自の喜劇世界へと結実していることを、以下の3点に注目して論証した。①俳優の個性を活かした人物描写、②長回しで撮られた絶え間のない台詞の応酬、③男性主人公と個性的な脇役たちの集団の描写に反映された、大衆社会における個と集団の問題である。
II.「プレストン・スタージェス作品におけるカルチャー・ギャップの表象」というテーマで、日本映画学会第11回全国大会において口頭発表を行い、大会プロシーディングスを執筆した。まず予備考察として、スタージェスの生い立ちと彼の映画作品との関連について論じた先行研究について整理した。また、ジャンルにおけるヨーロッパ出身の登場人物の典型例(貴族、英国人執事、芸術家)について確認した。これらを踏まえ、『レディ・イヴ』と『殺人幻想曲』について、イギリス人貴族を演じる俳優の演技法とスター・イメージに注目して映画テクストの分析を行い、スタージェス作品におけるアメリカとイギリスのカルチャー・ギャップの表象の独自性について明らかにした。
|