アメリカ黒人女性作家グロリア・ネイラーの作品を研究し、人種と性の双方にかかわる差別について考察することが目的である。今年度は、グロリア・ネイラーのMama DayとBailey’s Cafeを中心に研究し、その成果を論文として発表した。
1. Mama Dayに関する考察については、『関西英文学研究』第8号に掲載された。この発表および論文では、ネイラーが、アフリカ系アメリカ人作家たちが築き上げてきた伝統をいかに書き換えているかについて詳しく議論した。先行研究では、Mama Dayにおける二項対立やそれらのつながりが重要なテーマの一つであるとされてきた。本論では、対極的な世界の対話が前景化されている本作品において、黒人たちが自らのヴナキュラーを理解できないというエピソードを取り上げ、あまり研究されることのなかった一方向的な語りの役割を検討した。
2. Bailey’s Cafeに関する考察については、『多民族研究』第9号に掲載された。第一作目の作品からBailey’s Cafeまではネイラーの四部作とされている。本作品ではエチオピア系ユダヤ人女性を登場人物の一人として扱っていることから、ネイラーの視点は国内だけでなく国外にも向けられている、と批評家たちは指摘している。本稿では、作品を主に構成する女性たちの章ではなく、見過ごされがちであった枠物語を語る男性登場人物Baileyの語りに注目し、ネイラーのグローバルな視点がこの枠物語において既に提示されていることを論じた。さらに、作品のトーンを決定する役割を担うはずの枠物語が、これから語られる女性登場人物たちのアイデンティティの曖昧性を予感させる語りになっていることを詳しく分析した。
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