今年度は観光行動の動態モデル構築に向けた以下に示す一連の基礎研究を行った。まず、都道府県間の観光流動データを地理的に可視化し、対話的な操作によって任意の年月の流動を選択可能なWebGISを開発し、国外や道府県から東京都へ流入する観光者の月別・年別の動向を明らかにした。次に、パーソントリップデータが詳細化された大規模人流データを使い、東京都市圏での詳細な観光動態を把握するための方法を検討した。具体的には、東京都市圏における日帰り観光客のパスデータに関して、集計および非集計単位での一日の観光動態の時空間的可視化、領域データやパスデータに対する探索的時空間データ分析手法の援用を行い、観光動態の時間・空間的特性や観光行動からみた東京都市圏全体あるいは個別地域の特徴を把握した。最後に、東京近郊の国際観光地である富士山麓地域を事例に、着地を中心とした観光行動の同心円モデルについて検証した。より具体的には、観光庁の調査報告書(二次データ)と現地のアンケート調査から取得したデータ分析結果(一次データ)を組み合わせ、観光者の旅行形態や空間行動の特徴を「居住地からの距離による違い」の視点から明らかにした。これらより、観光者の行動パターンを特徴づける要因を部分的に解明することに成功した。しかし、研究課題の最終目標であるコンピュータによる観光行動の動態モデリングやシミュレーションを達成するには、観光者の意思決定や属性差に関するより精緻な分析が必要であり、今後の課題とされる。
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