研究実績の概要 |
必須アミノ酸は外界からの摂取が必要な大切な栄養素である。これまでの私たちの行動学的実験により、ショウジョウバエの成虫はアミノ酸欠乏状態に置かれるとアミノ酸をより積極的に摂取するようになることがわかっているが(Toshima and Tanimura, J. Exp. Biol., 2012)、アミノ酸の味覚受容経路や摂食制御機構はまだ解明されていない。そこで、行動遺伝学的手法や電気生理学的手法を用いて研究を行った。 特定の味覚受容ニューロンを遺伝学的手法により機能を阻害、または亢進したときに、アミノ酸欠乏に応じたアミノ酸摂食行動に影響が現れるか調べた。ショウジョウバエでは味覚受容体としてGRファミリーが知られているが、近年IRファミリーも味覚器に発現していることがわかってきたため、IRニューロンの関与を調べるためにスイスの研究室に訪問滞在し共同研究を行った。その結果、いくつかのGRニューロンに加えてIRニューロンもアミノ酸摂食行動に関与している可能性が示唆された。 次に、電気生理学的手法により、唇弁の味覚受容ニューロンがアミノ酸溶液に応答するか調べた。これまでの研究でハエがフェニルアラニンを好んで摂食することがわかっていたため、フェニルアラニンを刺激溶液として用いたところ、わずかながらスパイク応答が確認された。この結果は、フェニルアラニンを含む一部のアミノ酸は唇弁で受容されるというこれまでの考察を支持するものである。 これまでの研究成果から、複数の味覚受容ニューロンがアミノ酸摂食行動に関わっていることが明らかになった。ショウジョウバエはアミノ酸を複合的な味として感じていると考えられる。今後はアミノ酸刺激に応答するニューロンの完全な同定のために、カルシウムイメージングなどの実験を進めていく必要がある。
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