研究実績の概要 |
本研究は擬1次元物質であるハロゲン架橋遷移金属錯体(MX-chain)を架橋配位子により連結することで次元拡張MX型錯体を合成し、その構造、電子状態及び物性を明らかにすることを目的とする。1本鎖のMX-chainを連結することで鎖間の相関という要素を導入した次元拡張MX型錯体は、多様な電子、スピン状態を取りうると考えられ、それに基づく新奇物性の発現が期待される。 本年度は前年度に得られた新規二次元シート型MX錯体、[Ni2X2(BPCE)]X5 (X = Br, Cl, BPCE: 1,2-ビス(1,4,6,8,11-ペンタアザシクロテトラデカン-6-イル)-エタン)について、常圧下及び高圧下における物性、電子状態評価を行った。常圧下における電子状態は詳細な単結晶X線回折測定、Ramanスペクトル及び拡散反射スペクトル測定により評価した。その結果、ニッケルを用いたMX型錯体としては非常に珍しいことに金属イオンは混合原子価状態にあり、さらにその価数は通常の混合原子価MX錯体の2価4価ではなく、2価3価となっていることが示唆された。またPPMSを用いた磁化率の温度依存性測定の結果、スピンは3価ニッケルイオン上に存在し、シートを構成する一次元鎖内、一次元鎖間の両方において反強磁性的な相関をしていることが明らかとなった。 臭素架橋体、[Ni2Br2(BPCE)]Br3については、高圧下における粉末X線回折測定、Ramanスペクトル測定の結果より、2.6 GPa以上において構造変化、Ramanスペクトル変化に異常が観測された。特にRamanスペクトルにおいては本来のピークの低波数側に新たなピークが現れ、圧力印加に伴い強度が増加していく様子が見られた。このことより高圧下においては構造の一部が、常圧下とは異なる構造、電子状態の一次元鎖あるいは二次元シートとなっていることが予想される。
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