重複はその現れる構造によって、「項-述語」構造、「主題-題述」構造、「修飾-被修飾」と同格構造、並列構造における重複の4種に大別できる。本年度は特に、「項-述語」構造と並列構造における重複について観察を行った。その結果は以下の3点にまとめられる: 第1点、「項-述語」構造における重複については、「N1をVtN2する」型表現(例「ノーベル賞を受賞する」)を取りあげ、特に「VtN2する」が他動詞の場合を考察した。重複の自然さは、VtN2の性質(VtN2のN2が飽和名詞であるか否かなど)によって異なることが観察される。第2点、並列構造における重複については、中国語における同じ動詞を持つ並列構文“我喝茶、他喝珈琲”を取りあげ、日本語と英語との対照から言語差のことを考察した。その言語差には、文の語順や「節と節の並列関係の示す方法」などと関わる部分がある。第3点、これまでの観察結果を基にして、日本語と中国語の両言語の重複表現の自然さを律する文法を包括するメタ文法を構築した。具体的に言えば、次の5つの規則が挙げられる:(1)重複している要素の一方、あるいは両方の意味が薄くなれば、重複表現の自然さが高くなる。(2)話し手の意識が(重複している要素以外の)他の要素により拡散されれば、重複表現の自然さが高くなる。(3)重複している要素がある程度離れているときに、話し手の意識の推移が生じていれば、重複表現の自然さが高くなる。(4)同格構造、あるいは「修飾-被修飾」構造と同格構造が混じる構造においては、重複が生じやすく、その表現の自然さも高い。(5)話し手の態度や気持ちが発話の随所にかもし出されると重複が生じ、その表現の自然さも高い。 本研究は、これまでグライスの「量の公理」を持ち出して重複を一律に不自然と扱っていた言語~発話研究シーンを批判することに価値があると思われる。
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