本研究の目的は,社会福祉法人における環境・競争戦略・組織特性の有効なパターンの形成プロセスを解明することである。従来の研究では十分に明らかにされてこなかった,社会福祉法人において環境・競争戦略・組織特性・組織成果間の相互関係が「なぜ」および「どのように」して形成されたのかについて,動態的な定性的研究によって解明される。 当該年度においては,有効な競争戦略の1つである差別化志向型を採用する調査対象組織に対して事例分析を行った。本研究では,環境,競争戦略,組織特性の有効なパターンの形成プロセスを詳細に記述・分析のための異なるタイプの膨大なデータが収集するため,調査対象組織に対して複数回にわたる聴取調査および参与観察が行われた。その結果は,雑誌論文1編,研究発表1件,学位論文1編の形でまとめられた。当初の予定では,コスト志向型と差別化・コスト志向型を採用する調査対象組織についても,聴取調査および参与観察が行われる予定であった。しかし,差別化志向型を採用する調査対象組織への定性的研究の結果,分析範囲を拡張する必要が生じたため,さらなる詳細な事例分析が可能な調査対象組織を選定することが必要となった。そのために,各種シンポジウムへの参加や北海道老人福祉施設協議会の会長や副会長への聴取調査を通じて,調査対象組織の選定,データ収集が進められた。 本研究は,経営学の分野において必ずしも注目されてこなかった高齢者介護サービスを提供する社会福祉法人のマネジメントに注目し,その全般に関して静態的な定量的研究と動態的な定性的研究を併用することによりミクロ・マクロ両面からの多角的な解明が達成された。さらに,本研究を通じて,高齢者介護サービスを提供する社会福祉法人の効果的かつ効率的なマネジメントに対して有益な指針の提供が可能である。
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