研究実績の概要 |
イネ品種銀坊は転移因子mPingの転移活性が高い。銀坊主集団から目的のmPing挿入変異を選抜できれば、これらの遺伝資源を効率的に利用できる。本年度までに、10,560個体の銀坊主に由来するmPing挿入パネルの作製および後代の種子増殖を完了した。これまでに、50,629の挿入が同定できており、mPing挿入変異体の幅広い利用が期待される。 昨年度に、塩ストレス条件下でmPingを認識する転写因子としてORR1を同定した。ORR1のプロモーターにmPingが挿入した場合、mPingを介してORR1自身の発現が促進されると考えられる(発現促進ループ)。さらに、任意のmPing挿入型プロモーターを組み合わせることで、任意の遺伝子発現を飛躍的に増幅できると期待される。本年度は、発現促進ループ形成の可能性を検証した。ORR1の過剰発現体をもちいたマイクロアレイ解析の結果、ORR1の過剰発現により発現量が2倍以上に上昇した遺伝子は2,926個であった。各遺伝子の発現量と最近傍mPing挿入までの距離に着目したところ、転写開始点上流1 kbp以内にmPing挿入をもつ遺伝子の発現量は上昇する傾向が認められた。この結果はORR1がmPing配列を介して下流の遺伝子発現を促進することを示唆している。次に、ORR1の転写開始点上流1 kbp以内へのmPing挿入をmPing挿入パネルで探索・選抜した。選抜の結果、挿入部位の異なる3種類のmPing挿入個体を獲得した。選抜した挿入ホモおよび非挿入ホモ個体におけるORR1の発現量を比較した結果、発現促進ループの形成は認められなかった。ORR1によるmPing挿入型プロモーターの発現制御を効率よく利用するには、ORR1とmPingの相互作用を詳細に解析する必要がある。
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