研究実績の概要 |
巻雲の氷粒子の形や大きさは千差万別で実態はよくわかっておらず、地球の放射収支の不確実性を増大させる要因であることが知られている。特に氷粒子形状に起因する放射効果は、産業革命以降の温室効果ガス増加による放射収支の変化と同程度の不確実性を持っており、 全球をカバーする氷粒子形状の観測的研究が必要とされている。申請者は本年度、極軌道衛星に搭載された複数の観測データを用いて巻雲の微物理特性と氷粒子形状を推定するアルゴリズムを開発した。推定誤差の解析や、他の衛星観測雲プロダクトとの比較の結果、開発したアルゴリズムは従来の手法と比べて高精度に巻雲の微物理特性が推定可能であることが示された。また、巻雲の氷粒子形状のうち、プレート型氷粒子の混合比と氷粒子表面の粗度が推定できることを示した。 巻雲の氷粒子形状に着目した全球解析の結果、巻雲の氷粒子形状に関して(1)プレート型氷粒子の混合比における顕著な温度依存性及び緯度依存性、(2)水平配向したプレート型氷粒子が後方散乱強度に影響を及ぼすことで、能動型ライダー観測から推定された巻雲の光学的厚さにバイアスを引き起こす点を明らかにした。これらの成果をまとめて国際学会で発表を行い、国際学術雑誌に論文が受理された(Saito et al., 2017, Journal of Geophysical Research Atmosphere, 3/31/2017受理)。加えて、前年度に開発を行った雲判別手法に関する論文(Saito and Iwabuchi, 2016, Journal of Atmospheric and Oceanic Technology)と、赤外多波長観測から雲の微物理特性を推定する手法の論文(Iwabuchi et al., 2016, Progress in Earth and Planetary Science; 第2著者)がそれぞれ国際学術雑誌に出版された。
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