本研究の目的は,スペースデブリの膨大な軌道アーカイブから,地球の大気密度変動・磁場変動の関連性を明らかにすることである.太陽風などの太陽活動の変動により引き起こされる磁気嵐は,地球電離層電流の乱れ,大気加熱,大気擾乱へと現象が伝播し,最終的にはデブリの軌道に影響を及ぼすと考えられる.本研究では,米空軍のSpace Surveillance Network(SSN)が1957年の人工衛星初打上げ以来地球軌道物体の軌道変動のデータを記録・公開している軌道アーカイブ(SSNカタログ)から,大気密度変動の影響を強く受ける領域に存在している4000個以上のデブリの軌道データを抽出,統計手法によりデブリの軌道変動データから大気密度の時空間モデルを構築し,地磁場変動との関係性の評価を目指す. 本年度は,デブリ軌道データを用いた大気密度モデリングに関する先行研究の調査,SSNカタログのハンドリング方法の習熟のほか,地球磁場の平均的な荒れを示すKp指数の時系列データに対する低軌道デブリデータの時間応答を相互相関解析によって評価した.特に,1998年9月末の磁気嵐についてイベント解析を行った.磁気嵐に伴う大気擾乱によりデブリに働く大気ドラッグが一時的に増大し,デブリの高度低下率が一時的に増加する.イベント期間中にこの突発的軌道減衰が記録されている平均運動変化率データをデブリ1130個分抽出し,それぞれのデブリについてKpに対する相互相関係数を最大にする応答時間(L*)を推定した.デブリの応答時間(L*)毎の軌道高度-傾斜角分布を追跡すると,地球高緯度を通過するデブリが中高度から低・高高度側の順で応答が始まり,次第に低緯度を通過するデブリが低→高高度で応答していく様子が得られた.
|