本研究の目的は、20世紀を代表する哲学者ジル・ドゥルーズの初期主著である『差異と反復』と『意味の論理学』に通底する「永遠回帰」の思想を、「存在論的な永久革命」の思想として新たに読み解き、従来の解釈では見過ごされてきたドゥルーズの初期存在論がもつ政治的性格を明らかにすることにある。具体的には、ドゥルーズの存在論における永久革命思想と永遠回帰解釈の密接な結びつきを示すことを軸に据えつつ、まだ世界的にみても研究の少ない『意味の論理学』における永遠回帰思想の解明、初期ドゥルーズ哲学と精神分析との関係の明確化、ドゥルーズの個体化論とシモンドンの個体化論の比較検討という三つの課題に取り組んでいくことを柱とした研究である。 2015年度の研究は、特別研究員奨励費を用いて哲学や精神分析、思想史に関わる文献や資料を購入あるいは収集し、とりわけ『差異と反復』からの連続性と切断点の双方を明確化していくかたちで、『意味の論理学』における永遠回帰の存在論と永久革命の思想の解明に努めた。研究の過程で、両著作の存在論的な枠組みの差異が精神分析への態度の変化と連動していることが明らかとなり、当初予定していたとおり研究は哲学と政治思想と精神分析理論を接合し横断する複層的なものになった。また、こうした研究によって得られた成果は、インドで開催された国際学会The Third International Deleuze Studies in Asia Conference(特別研究員奨励費はこの学会への参加費用にも使用された)での発表や、日仏哲学会の学会誌『フランス哲学・思想研究』の査読つき論文、哲学若手研究者フォーラムと日本精神医学史学会での発表、そして11月に指導研究員と共同で企画したドゥルーズ没後20年シンポジウムの講演といったかたちで公表された。
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