本年度は法格言「知りそして望む者に不法は生じない」(以下当該法格言)のコモン・ローにおける定着の過程について研究を行った。 研究発表としては、平成27年6月の法制史学会第67回総会において、「『ブラクトン』に見る13世紀コモン・ローとローマ=カノン法の接触」と題した発表を行った。前年度の研究内容を軸に、『ブラクトン』(以下本書)と以後の文献における当該法格言の理解と利用に一致点は少ないものの、その点こそコモン・ロー法学の進展を検討する上で重要であると述べた。法格言への注目を喚起したことは、コモン・ローとローマ法の関係が再認識される中で価値のある指摘になったと考える。 その後の研究では、翌7月に二週間の日程で渡英し、一週目はレディング大学で開催されたBritish Legal History Conference 2015(以下BLHC2015)への聴講参加、二週目は本書ならびにドロエダ『黄金汎論』手稿本の資料調査を行った。BLHC2015では多くの研究者と知己を得ることができ、将来的なコネクションの一端を掴むことができた。また手稿本の調査についても満足のいく収穫となった。 秋以降は、本書以後のコモン・ロー文献における当該法格言の利用について検討を行った。上述の通り、本書との直線的な結び付けには留保を要するが、当該法格言の認知は既に法廷年報(YearBook)の時代にあったことが明らかになった。その一方、「コモン・ロー法格言としての地位の確立は、その意味内容を中世から近代にかけての判例において集積による結果ではないか」という、本研究課題開始時に抱いていた仮定とは正反対の様相をも示すことになった。以上により、コモン・ロー法格言としての定着と理解の実像を明らかにするため、個々の判例検討より当該法格言が用いられた際の状況などのより詳細な分析について、早期に研究論文として発表したい。
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