2015年は谷崎潤一郎の没後50年にあたり、新たな『谷崎潤一郎全集』の刊行が今年5月から開始される。初収録作品は100点以上、代表作「細雪」のためのメモ「続松の木陰」など創作ノート10冊と晩年の日記8冊まで収録、従来の全集に欠けていた解題と校異も各巻末に付されるが、そのうち「細雪」を含む第一九・二〇巻の校訂と解題を担当した。その作業により、戦前から戦後へと大きく価値観が転換するなかでの谷崎の創作活動について、特に戦前の内務省による検閲制度から占領期のGHQによる検閲制度へと移行する状況下におけるその実態が明らかとなった。 以上の全集編集作業とも関連して、谷崎没後50年を機に刊行された『谷崎潤一郎 没後五十年、文学の奇蹟』(河出書房新社、2015・2)に「作品案内」と「研究史」を寄稿し、その作品が近代日本の諸相(文化・社会・政治や権力作用)を描き出しているだけでなく、1910年に谷崎が文壇に登場した時の評価から戦前・戦後の同時代人による批評、そして近年のテクスト論や言説研究まで、谷崎研究史が近年の文学研究の進展の諸相をうつし出していることを確認し、今後の研究に期待される方向性を提示した。 2014年12月5日から7日まで上海外国語大学で開催された国際フォーラム「日中文学関係――上海を中心として」に参加し、口頭発表「翻訳・越境・検閲―谷崎潤一郎「潤一郎訳源氏物語」「細雪」と石川達三「生きてゐる兵隊」を巡って―」を行った。これは、2度の中国への渡航体験(1918、1926)を持つ谷崎による諸作(現代語訳「源氏物語」と「細雪」など)、石川達三「生きてゐる兵隊」(一九三八・三)、林語堂「北京好日」(一九三九)を取り上げながら、複数の作品が国家単位の境界を越えて交通することで変容しつつ関係を取り結ぶ様相を明らかにし、翻訳・流通過程からアジアのなかの日本文学の諸相を検討したものである。
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