中性子ハロー核11Liの基底状態にはハローに起因した現象である、大きな核半径、狭い運動量分布、小さな2中性子分離エネルギーなどが報告されてきた。励起状態に関してはこれまで、クーロン励起によるダイポール励起の研究が主流であり、低い励起エネルギーにクーロン分解反応で説明できるダイポール励起が報告されてきた。我々のグループはこれに対し、核力で11Liの低い励起状態を探索することを試みた。核力の励起ではクーロン励起では見えない、多重極の励起状態も励起できる可能性があると考えた。 実験は平成27年度の4月から5月にカナダ、TRIUMF研究所のIRIS(ISAC Charged Particle Resction Spectroscopy Station)実験施設で行った。この実験のために新たに導入した薄い窓なし固体水素標的により、低いバックグラウンドレベルで高い励起エネルギー分解能を実現した。非弾性散乱の解析に必要な弾性散乱のデータも同時に取得し、比較的広い角度領域の微分断面積から光学ポテンシャルを導出した。非弾性散乱のチャネルでは0.80 ± 0.02 MeVにピークが観測された。これはこれまでに報告されてきたソフトダイポール共鳴状態のピークよりも低いエネルギーであった。またそのピークの共鳴幅は1.16 ± 0.06 MeVであることが詳細な解析により理解できた。この状態の性質を調べるためこのピークの微分断面積の角度分布を求め、巨視的DWBAの計算と比較することを試みた。移行角運動量ごとに注意深い計算がなされ、観測されたピークはこれまでに報告されていないモノポール励起の可能性を大きく含んでいることが分かった。本実験結果は近く投稿論文にまとめる。これらの実験結果は2010年代に入って減速しかけた中性子ハローの理解を再加速するものと考える。
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