研究実績の概要 |
本研究では,がんの血行性転移に関わる微小循環内の腫瘍循環細胞(CTC)の接着現象を計算モデル化し,大規模パラメトリック計算を行うことで,CTCの接着がどのような力学的条件下で成立するのかを解明する.そのために実験力学に基づく分子・細胞レベルの計算力学モデルを構築し,ボトムアップ的に組織レベルの計算力学モデルを構築する.このモデル構築には最先端の実験力学との融合が不可欠であることから、分子・細胞スケールに関してはマサチューセッツ工科大学(MIT,米)のRoger D. Kamm教授の研究グループと国際共同研究とした.平成26年4月1日から平成27年3月31日の12ヶ月間,Visiting studentとしてMITのRoger D. Kamm教授の研究室にて,本研究の基盤となる接着モデルの構築に従事した.Kamm教授の指導の下,実験力学に基づく分子・細胞レベルの計算モデルを構築し,ボトムアップ的に組織レベルの計算力学モデルの構築に成功した.モデル構築後はこれを用いて,受容体の種類や密度といった分子レベルのパラメータに注目したパラメトリック計算を実施した.毛細血管中における細胞は「Bullet motion」と呼ばれる運動を示し,この運動が接着細胞の速度を効果的に減少させることを明らかにした.このことから,白血球の回転挙動に寄与するとされるPSGL-1とP-selectinのような比較的弱い結合であっても,毛細血管においては安定した接着となることが明らかとなった(revision submitted).これらの結果は,細胞接着のバイオメカニクスに新たな知見を与えるものであり,白血球による免疫応答やCTCの転移を診断する上で重要な基礎的知見となる.一方、CTCの流動に関する研究は1件の査読付英文雑誌論文としてまとめた(Takeishi et al., 2015, Phys. Rev. E).
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