本年度は地上光学観測網で用いる画像処理アルゴリズムの開発を進めた.光学観測を行うとき,信号雑音比からみる理想は対象物体が単一の光点としてセンサ上に現れることである.この理想から外れると,対象物体の光点が見かけ上運動し軌跡としてセンサ上に現れる.このとき,軌跡を構成するピクセルあたりの信号雑音比は大幅に低下する. 本アルゴリズムは取得した画像に変形処理を施し,ピクセルあたりの信号雑音比を向上させ通常では検出できない軌跡から物体を見つけることを目的としている.具体的には,画像を傾ける処理と圧縮する処理を加えることで信号雑音比向上を図る.圧縮する際のピクセル幅の平方根に比例して信号雑音比は向上する. 本年度開発したアルゴリズムの有効性を検証するために,JAXA(宇宙航空研究開発機構)が取得した観測データに対して同アルゴリズムを適用した.結果,JAXAの従来手法では検出できていなかった,軌跡として現れていた物体を検出することができた.合わせて模擬データを使用して,検出結果の信頼性(誤検出かどうか)を評価したところ,同物体を検出した際のパラメータであれば誤検出の可能性は低いことも明らかにした. 本アルゴリズムはPython言語によって実装した.JAXAの画像処理ライブラリの実装言語との共存を容易にするためである.現在,一つの観測データセット(18枚)から物体を探索するのに数時間程度要している.今後,大きな観測データベースへアルゴリズムを適用するには,アルゴリズムの実行速度向上が課題である.
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