スケーリング限界に直面し、性能限界を迎えていたSi-LSIは、SGOI(SiGe on insulator)構造の実現により、高速な演算ができるようになると提唱されている。しかし、SGOIの混載により高速化したLSIでは、チップ間通信に使われている金属配線による信号遅延が増大し動作速度を制限する要因となり、通信には電気信号に比べ伝送速度が格段に速い光を用いることが必須である。 最近、Ge中に高濃度(≧10%)のSnを導入すると、バンド構造が直接遷移化し光機能を有することが報告された。すなわち、SiGeの高移動度を最大限に活かした次世代LSIの実現には、10%以上のSn濃度を有するGeSnを基板上に混載して新機能を融合する革新的技術の創出が必須となる。しかし、SnはGeに比べ格子定数が14%ほど大きく、高濃度のSnを有するGeSn結晶を形成することは困難であった。 そこで採択者は、GeSnの結晶成長温度を低温化することでSn析出を抑制することができるのではないかと着想した。Ge中のSn濃度や膜厚、成長温度をパラメータとして多くの実験を行った結果、300度という極低温において13%のSn濃度という、目標にした10%を遥かに超えるSn濃度を有するGeSn結晶を実現することに成功した。 しかし、GeSn結晶中のSn原子は熱的に非常に不安定であり、GeSn結晶をデバイスプロセス温度(~300℃)下に長時間置くとSnの析出が発生することが判明した。そこで採択者は、レーザーを用いて結晶成長前に成長の起点である種結晶を形成し、結晶成長温度を200度以下に更に低温化することで、成長後のGeSn結晶中のSn原子が熱的に安定化することを発見した。その結果、成長したGeSn結晶はデバイスプロセス温度下に48時間以上置いてもSn析出は発生せず13%の熱的に安定な置換Sn濃度を有するGeSn結晶を実現した。
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