本研究は東アジア漢文文化圏を視野に入れた説話研究である。今年度はベトナムの神話伝説集であり、李陳朝の歴史や文化を探る上で重要な『粤甸幽霊集録』のテキストのうち、公益財団法人東洋文庫に所蔵される『粤甸幽霊集録』を翻刻し解題をつけて投稿した。『粤甸幽霊集録』のテキストの翻刻は日本でははじめてであり、これによりベトナムの前近代のテキストへのアクセスが容易になった。そして東アジアの漢文文化圏における歴史や文化について見渡すツールが一つ増えたといえる。 またハノイの漢喃研究院およびハノイ国家図書館にある『嶺南せっ怪列伝』の諸本をすべて入手した。さらに漢喃研究院では『嶺南せっ怪列伝』に関わると思われる資料を得た。去年度までにハノイの漢喃研究院にある『嶺南せっ怪列伝』(VHv.1473)を2巻の途中(全3巻)まで読み進めていたが、今年度は3巻の途中(残り8話)まで読み進めた。その際、諸本を入手したことにより、テキストクリティークができるようになり、『嶺南せっ怪列伝』の古態を探る上での問題点を明らかにすることができた。『嶺南せっ怪列伝』は2巻までは独自の話が多かったが、3巻に入り『粤甸幽霊集録』と重なる話が増えていった。そのためこの二つの関係を探ってゆくことで諸本の関係がさらに明確になることがわかった。 『粤甸幽霊集録』および『嶺南せっ怪列伝』に登場する寺院および遺跡のフィールドワーク調査をおこなった。現地での聞き取り調査によって資料に登場する遺跡の場所を確認し現地資料を入手し、注釈をつける際の参考とすることができるようになった。
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