本研究は、人間が、自らが自律者であるという認識を獲得し、自律者として振る舞うようになる過程を明らかにすることを目的としている。最終年度である平成27年度は、以下の二つの作業を行った。 第一に、教育学における従来の自律概念に対して、フーコーの主体化=従属化論を踏まえて、自律と他律の関係を表す新たなモデルを提示する作業を行った。具体的には、自律と他律の関係について、従来の語り方を「切り分け‐結び付けモデル」、新たに提案する語り方を「両義性モデル」として示すことによって、本研究のテーマである「自律の虚構性」の意味とその構造をより明確にすることができた。すなわち、自律と他律は実際には分かちがたいのであり、従来の議論が想定してきたような、他律とは異なる純粋な自律なるものは虚構だということである。そこから、個々の人間が自律者として振る舞うようになるためには、両義的であるはずの自律と他律を異なるものとして区別するようになる段階が必要不可欠だという結論を導き出した。 第二に、中後期フーコーの自由・権力・主体といった概念をめぐる議論の展開について、著作・講義録・インタビュー等を基に考察した。この作業のねらいは、主体に関して権力の作用を通して形成される側面を主に描いていた中期フーコーの思想と、まさに自己が自己と何らかの再帰的・反省的な関係を結ぶことを主体化として分析した後期フーコーの思想を併せて読み解くことによって、フーコーの思想を基に子どもについて論じる方途を探ることにあった。結果として、今後、「分割する実践」をめぐる中期フーコーの議論を改めて取り上げながら、子どもが他者との権力関係の中で自律者として主体化する過程について論じていくという見通しを得た。
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