研究課題
特別研究員奨励費
本研究の背景筋小胞体カルシウムポンプはP型のATP加水分解酵素であり,筋小胞体膜中に存在する膜タンパク質である.1個のATPを加水分解し,2個のCa2+を細胞質から小胞体内腔へ1万倍の濃度勾配に逆らって能動輸送する.これまでX線結晶構造解析によって輸送サイクルの反応中間体の立体構造が決定され,カルシウムポンプは大規模な構造変化によってイオン輸送を実現していることが示唆された.本研究では,分子動力学(MD)計算によって生体環境中のカルシウムポンプの熱運動を解析した.多リン酸分子力場の改良脂質二重膜に埋め込まれたATPとADPそれぞれの結合状態の筋小胞体カルシウムポンプの全原子MD計算を実行した.本研究では,多リン酸分子の力場パラメタをより高精度に改良した.改良された力場パラメタをATP結合状態のカルシウムポンプだけでなく,他のATP結合タンパク質のMD計算に適用して検証を行った.カルシウムポンプの場合では,従来の力場を用いるとATPの構造が大きく崩れてしまう結果に対し,改良された力場ではATPの構造は安定に保持した.他の4種類のATP結合タンパク質を用いた場合でも同様な結果が得られた.また,ATPの取り得るコンフォメーションの多様性の比較のため,改良した力場とオリジナルの力場を用いて溶液中ATPのレプリカ交換MD計算を行った.従来の力場を用いた場合ではATPの三リン酸部分が伸びきった構造のみ出現したが,改良された力場ではこの構造も含むより広範囲なコンフォメーションを実現していた.改良された力場で得られた三リン酸構造の分布は,PDBに収容されているタンパク質に結合したATPの構造との重なり合いが見られた.改良した力場は生体分子のダイナミクスの研究に適しており,カルシウムポンプや一般のタンパク質のMD計算におけるATPの熱運動の解析に有用であることを示した.
26年度が最終年度であるため、記入しない。
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Journal of Chemical Theory and Computation
巻: 10 号: 9 ページ: 4133-4142
10.1021/ct5004143
http://www.riken.jp/TMS2012/tms/ja/member/profile/yasuaki_komuro.html