研究実績の概要 |
海洋性単細胞藻類のパルマ藻は,水圏の重要な基礎生産者である珪藻の姉妹群で,珪藻同様に珪酸質の細胞外被を持つ。本研究では,これまで未解明な点の多かったパルマ藻の性状を解析し,珪藻と比較することで,両者の共通点と相違点の解明を試みている。
平成27年度は,低珪酸濃度条件で培養することでプロトプラスト化したパルマ藻Triparma laevis NIES-2565の細胞を利用して,細胞外被の再構築過程を透過型電子顕微鏡で解析した。
その結果,外被を構成する4種のパーツ(shield, ventral, dorsal, girdle)は,それぞれ独立した珪酸沈着小胞で形成された。shieldとventralを形成する珪酸沈着小胞は,形成初期に葉緑体近傍で観察されるのに対し,dorsalとgirdleを形成する珪酸沈着小胞は,形成初期に細胞膜近傍で観察されることがわかった。プレートの発達過程では,ゴルジ体と珪酸沈着小胞の近傍に細胞壁と同色の構造を含む直径50-150 nmの小胞が複数観察され,ゴルジ体由来の小胞がプレートの発達に関与している可能性が示された。プレートは珪酸沈着小胞の内部で樹枝状に発達していた。完成したプレートの細胞外への放出は,shield, ventral, dorsal, girdleの順に起こり,放出の際には珪酸沈着小胞の膜と細胞膜が融合することが示された。また,研究計画当初に予測していた中心小体やミトコンドリア,微小管,アクチンの外被形成への明確な関与は本研究では確認されなかった。本研究により,T. laevisの細胞外被形成の一連の過程が明らかとなり,細胞外被を構成するパーツの種類によって珪酸沈着小胞の発生位置が異なるパルマ藻特有の性質が明らかとなる共に,プレートの発達過程は珪藻と類似することが示された。
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