研究実績の概要 |
妊娠初期子宮内膜で起こる着床、胎盤形成などの現象は、その複雑なプロセスのため依然として不明な点が多い。本研究は子宮内膜において時計遺伝子が発現するという知見から、時計機構から妊娠現象の解明を試みた。特に脱落膜化における時計機構の衰退に着目し、衰退を招く要因(入力系)と衰退によって生じる変化(出力系)の解明を目指した。前年度は出力系の解析を行い、本年度は入力系に焦点を当てた研究をおこなった。振動低下を招く候補として、脱落膜化に必要であるIL-11シグナルに着目した。過去の報告からサイトカインはいくつかの細胞種で時計遺伝子の振動を低下させる。したがって、IL-11の脱落膜化過程における発現量の変化、および時計遺伝子群の発現に対する影響を検証した。脱落膜化誘導の結果、ll-11の発現量が有意に増加した。また時計遺伝子Per2, Bmal1, またはRev-erbαの発現振動は有意に低下したた。一方で、時計遺伝子Nfil3およびDbpの発現振動に有意な変化はなかった。また間質細胞におけるIL-11添加実験では、100 ng/mLでPer2 promoter活性の振動が低下した。しかしqPCR解析では、Per2遺伝子発現にIL-11による有意な影響は認められなかった。内部標準のとれているqPCRの結果を信頼すると、IL-11のPer2遺伝子発現に対する抑制効果はないものと示唆された。一方、Rev-ervα, Dbp, またはNfil3といった時計遺伝子はIL-11による影響が認められ、その発現量が有意に増加した。以上、結論として間質細胞に対するIL-11単独添加では、脱落膜細胞で認められる時計遺伝子群の発現振動の低下を再現できなかった。脱落膜化のプロセスにおいて時計遺伝子の発現量および振動の低下を招く他の要因があると考える。ただし、IL-11はの遺伝子発現に影響するため、脱落膜化のプロセスにおける他の因子との相互作用により時計遺伝子を制御している可能性がある。
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