研究実績の概要 |
生物が1日の昼や夜の長さに反応する性質を光周性と呼ぶ。チャバネアオカメムシは明瞭な光周性を示し、メス成虫は長日条件で幼若ホルモン (JH) を合成し卵巣が発達するが、短日条件ではJHを合成せず卵巣は発達しない。本種を含めいずれの昆虫においても、光周期によってJH合成を調節する物質はわかっていない。本研究は、本種の脳にあるJH合成抑制物質を明らかにすることを目的とした。前年度におこなった脳抽出物の加熱処理や酵素処理により、JH合成抑制物質がペプチドである可能性が示されたため、他の昆虫で知られるJH合成抑制ペプチドについて本種のJH合成への影響を放射化学アッセイ法を用いて調べた。既知のペプチド7種類を調べた結果、唯一アラトスタチンB (AST-B/MIP) に抑制効果が見られた。次に、本種のRNA-seqのデータからAST-B/MIPの前駆体ペプチドをコードするcDNA配列を探し、9種のAST-B/MIPを推定した (Plast-AST-B/MIP1‐9)。 Plast-AST-B/MIP1, 5, 8を合成し、アラタ体のJH合成への影響を調べたところ、いずれのPlast-AST-B/MIPにおいても強いJH合成抑制効果を示した。 さらにMALDI-TOF MS, MS/MS解析により、少なくともPlast-AST-B/MIP8は脳内に存在することが明らかとなった。また、Plast-AST-B/MIP前駆体をコードする遺伝子のmRNA発現は短日・長日条件ともに確認され、2条件間に発現量の差は見られなかった。これまでの結果と本結果より、Plast-AST-B/MIPは光周期によりその合成ではなく分泌が調節されることでJH合成を調節していることが示唆された。 また、本研究により、カメムシ目昆虫で初めてJH合成抑制物質が明らかになった。
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