研究実績の概要 |
今年度は、ゲームの影響力構造を中心として研究を行って、(1) 影響力構造とナッシュウ均衡との関係;(2)影響力構造をもってゲームを近似する、という二つの問題を研究しました。その結果を学会で発表し、論文“Influence Structures, ε-Approximation, and Nash Equilibria”にまとめています。 (1) 普通、ゲーム理論では、プレイヤーの利得関数は客観的立場から描かれていると仮定されている。一方、一人の内部者(プレイヤー)に対して、自分の利得に直接な影響力を持つ人々の行動だけを考える。それを定式化するのは「影響力構造」(influence structure)という概念です。影響力構造は、あるゲームにおける誰の行動が誰の利得に対して影響あるのかという関係を表している。今年度の研究に通じて、影響力構造とナッシュ均衡の存在性との関係を発見しました。 (2) さらに、限定的認知能力を持つ内部者の観点から、自分に対して顕著な影響を持つ人々だけを考える。それを描くために、「ε-影響力構造」(ε-influence structure)を定義した。今年度の研究に通じて、ε-影響力構造と元のゲームの近似的ナッシュ均衡との関係が分かりました。それにより、客観的の立場から、複雑な影響力構造を持つ社会ゲームにはナッシュ均衡が存在しないかもしれないが、限定的認知能力を持つ内部者の主観的の立場からいうと、近似的な安定行動パターンが存在する。 客観的には社会全体が一つのゲームになる一方、限定的認知能力を持つ内部者の観点から、各個人は、各個人の小さな社会世界を持つ。そういう状況をどのように捉えるのか、その小さな社会世界に限られた経験から個人の認識・行動はどういうふうに形成するのか。それらの問題について、今年度の研究結果は興味深い答えや示唆を与えたと考えています。
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