ピエゾ抵抗型力センサを用いて,液中の微小な力が計測可能なセンシングシステムを構築し,細胞の接着力を計測した.このシステムはナノニュートン(nN)以下の力分解能およびミリ秒以下の時間分解能をもつことと,細胞の接着面において接着力の計測が可能であることを特徴とする. 実際にウシ大動脈由来平滑筋細胞(BAOSMC)の接着力を計測し,細胞がセンサに接触・接着してから薬剤によって剥がされるまでのダイナミクスを捉えることができた.BAOSMCは播種後にセンサ上に接着してから約2時間かけて接着力を増大させること,その間に力が急速に増大する時間帯と停滞する時間帯とがあることなどがわかった. BAOSMCの接着力が最大レベルに達した後に,消化酵素トリプシンを作用させて細胞をセンサから剥がしたところ,(トリプシンの滴下から)約1分後に力が低下し始め,約10秒間かけて力が消失した.接着力は徐々に低下するのではなく,瞬間的なステップ状の変化を何度か繰り返した. 細胞は接着斑とよばれるタンパク質複合体を形成して,他の細胞や細胞外マトリクスに接着することが知られている.上記の研究結果は,接着力の生成が接着斑と細胞骨格との複雑な相互作用に起因していること,接着斑が分解する過程で接着力は徐々にではなく瞬間的に解放されることがわかった.こうした知見は,今後細胞運動の力学モデルを構築する上で,重要な情報になるものと期待される.
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