研究課題
特別研究員奨励費
本研究は,気候変動に伴う森林の影響評価に向けて,環境ストレス等により生育不適環境下での樹木の水分通導機能の損失とその回復機構を明らかにすることを目的とした.既往研究では樹木の水分通導機能の評価は樹体より切り出した枝や幹試料を用いて行われてきたが,破壊的な測定であるため,同一個体で継続的に水分通導機能の挙動を追跡することが困難であった.本研究では,乾燥ストレス下での樹木の通水阻害域の変化をMRIを用いて非破壊的にモニタリングした.調査にはシラカンバおよびカツラのポット苗を用い,苗への潅水を絶つことで個体に乾燥ストレスを与えた後,再度潅水を行い乾燥ストレスを解消した.定期的に樹幹木部内の通水阻害域および葉の水ポテンシャル(Ψleaf)を調査した.また,柔細胞のデンプンや糖が,木部通水阻害の解消に関与しているとの仮説を検証するため,乾燥~再潅水処理を経た個体で樹幹内のデンプンと可溶性糖を定量化し,湿潤時の個体の値と比較した.その結果,両樹種ともにΨleafの低下(乾燥ストレスの進行)にともない木部で通水阻害が拡大する様子がMRIで確認された.一方,木部で通水阻害が確認された個体に再潅水を行うと,Ψleafは回復したものの,通水阻害域の減少(通水阻害の解消)は確認されなかった. 貯蔵養分について,両樹種ともに乾燥~再潅水処理を行うことで樹幹木部のデンプン含量は低下したが,可溶性糖含量は顕著な変化が認められなかった.従来の破壊的手法により測定された樹木の水分通導機能は樹体の乾燥解消後に回復することが多くの先行研究で報告されている一方で,本研究ではMRIによる通水阻害域の解消(空洞化した道管の再充填)が認められなかった.このことから,木部通水阻害の解消に関し,MRIで検出される道管内腔の水の存否だけでなく,水を保持していた道管の乾燥ストレス下での水分通導度の可変性の双方から検討する必要性が新たに提示された.
26年度が最終年度であるため、記入しない。
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Plant, Cell & Environment
巻: in press 号: 12 ページ: 2508-2518
10.1111/pce.12510