研究実績の概要 |
多核ポリヒドリドクラスターの光化学では, 多核骨格を保った励起種の発生が期待され, 昨年度までに光照射条件下における高い反応性を利用した二酸化炭素活性化について報告した. しかしこの方法は, 二酸化炭素のC=O二重結合の切断などの特異的な反応は進行するものの, 生成したカルボニル配位子と外部基質との反応が困難であることをこれまでに明らかにした. 本年度は, 錯体上に基質を取り込んだ後, 二酸化炭素とのカップリング反応を行う手法を中心に研究した. ルテニウムおよびロジウムからなる二核ポリヒドリド錯体Cp‡Ru(μ-H)3RhCp* (1, Cp*:C5Me5, Cp‡:C5tBu3H2)を8気圧の二酸化炭素雰囲気下, ベンゼン溶媒中で180°Cで反応させたところ, Cp‡Ru(η5-C6H6COOH) (2) が生成した. 本反応は化学量論反応ではあるもののC-H切断を伴ったカルボキシル化反応であり, 二酸化炭素を利用した官能基化反応における8族と9族金属からなる二核ポリヒドリドクラスターの有用性を示すものである. これまでに二核錯体Cp‡Ru(μ-H)4RuCp‡ (3) と含ヘテロ環状化合物との反応で, 効率的にsp3性C-H結合が切断されることを明らかにしている. 多核錯体3を利用したsp3性C-H結合の直接的官能基化反応を検討したところ, 二酸化炭素との反応では有意な結果は得られなかったものの, 環状アミンと水との触媒的脱水素カップリング反応が進行することを見出した. 種々両論反応を検討し, 多金属中心を利用した二段階のC-H結合の切断が鍵反応であることを明らかにした. 今後多核錯体上での多段階のC-H切断を利用することで, 水のみならず二酸化炭素の取り込みを伴ったC-H結合の触媒的官能基変換に応用できるものと期待される.
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