研究実績の概要 |
特別研究員らはこれまで、最悪性の脳腫瘍である膠芽腫 (Glioblastoma) の検体を用い、膠芽腫の造腫瘍性を支える分子メカニズム、特にエピジェネティックなメカニズムに着目し、その解明に取り組んできた。東京大学医学部附属病院よりヒト膠芽腫検体の提供を受け、それらを培養・解析することで、膠芽腫細胞のゲノムDNAに、シトシンの酸化体である5hmC (5-hydroxymethylcytosine) が、全シトシンの1.0%を占めるほど多量に存在することを見出し、さらに5hmCが転写を制御する分子メカニズムを明らかにした (Takai, H. et al., Cell Reports 2014)。本研究により、5hmCによる転写活性化の分子メカニズムが明らかになり、5hmCが膠芽腫治療における有望な標的であることが示唆された。5hmCの産生酵素であるTET1のノックアウトマウスが正常に生育することから、TET1に対する分子標的薬は副作用の少ない抗がん剤となることが期待された。現在、特別研究員らの開発したin vitroスクリーニングシステム等を利用した膠芽腫標的薬の創製プロジェクトが進行中であり、今後膠芽腫に対する新たな低分子標的治療薬の開発に結びつくことが期待される。さらに本年度は、5hmCがDNAだけでなくRNA、特にmRNA中にも存在することを見出しており、現在、5hmCがmRNAの核外輸送や、翻訳などにおいて果たす役割の解析が進行中である。
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