研究実績の概要 |
テトロドトキシン(TTX)はフグ毒として知られる海洋性アルカロイドであり、Navを強力かつ選択的に阻害する。哺乳類のNavには、10個のサブタイプ(Nav1.1-1.9、Navx)が存在し、それぞれ発現時期や組織および薬理学的役割は異なっている。また、そのうちTTXはNav1.1,1.2,1.3,1.4,1.6,1.7を阻害すること、TTXの構造類縁体である4,9-anhydroTTXはNav1.6を選択的に阻害することが明らかとされている。それゆえにTTXは、わずかな構造変換によって活性に大きな違いを生み出せる可能性を秘めており、TTXを基盤としたNavの研究が期待できる。しかし、TTXは小分子ながら非常に多くのヘテロ原子が密集した複雑な構造を有しているため、TTXから半合成によって構造類縁体を供給することは極めて困難である。そこで我々は、類縁体の合成も見据えたTTXの実用的な合成経路の確立を目指し、研究に着手した。 採用2年目においてはTTXの不斉全合成を達成した。採用3年目では合成経路の短工程化と反応条件の最適化を行い、TTXの効率的で、かつ大量合成可能な合成経路を確立した。続いて、合成終盤の中間体を用いて、天然物である11-norTTX-6-(R)-olと4,9-anhydro-11-norTTX-6-(R)-olに加え、その他8種類の構造類縁体の全合成を達成した。これによりTTXの構造類縁体にも適用可能な合成経路の確立、ならびにTTXを基盤としたケミカルバイオロジー研究の土台作りを完了した。
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