1.細胞内セカンドメッセンジャーであるイノシトール三リン酸(IP3)の細胞内濃度を「定量的に」光操作可能とする基盤技術の構築を行った。具体的には、既に開発済みの光活性型Aktモジュール分子を対象として、数理モデルとコンピューター・シミュレーションによって、「その細胞内における活性を定量的に光操作可能とする方法論」を構築した。生化学的手法により光摂動に伴うAkt活性の変化を評価したところ、細胞内におけるAkt活性の時間パターンを定量的に光操作可能であることを確認した。すなわち、細胞内におけるIP3濃度を定量的に操作可能とする基盤技術の構築に成功した。IP3濃度に限らず細胞内のあらゆる分子種の濃度は細胞外からの様々な刺激に応じて厳密に制御されている。そのため、光活性型モジュール分子を定量的に操作可能とした方法論は、光活性型モジュール分子を用いた関連研究全般に大きな波及効果を有すると考えられる。
2.当初予定していた「光照射によりIP3への結合定数を可逆的に変化させるモジュール分子」の開発を目指した。しかし、この原理に基づき細胞内のIP3濃度に光摂動を加えることはできなかった。定常状態におけるIP3の細胞内濃度が低く、モジュール分子によって補填されるIP3の分子数が、その作用対象である受容体タンパク質の摂動に不十分であったためと考えられる。そのため、開発済みである光活性型Aktモジュール分子のアプローチにならい、IP3の産生をつかさどるタンパク質であるフォスフォリパーゼCの酵素活性を光操作するアイデアを採用し、このcDNAを作製した。
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