研究実績の概要 |
太陽光水分解水素製造を担う光電極材料の開発は重要な研究課題である.従来,dn (n = 0, 10) 系遷移金属酸化物への不純物ドーピングで高い可視光水分解能を達成している.一方,dn (n ≠ 0, 10) 系遷移金属酸化物は価数搖動やd-d遷移の複雑さ故,高い可視光水分解能を得るための材料設計指針が明確にされていない.そこで本研究では,dn系遷移金属酸化物の良質な単結晶薄膜を作製し,配向,表面状態,組成,電子構造を系統的に制御し,それらの因子が光電気化学特性に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした. 一つ目にα-Fe2O3光電極の面方位と光電気化学特性の相関について研究した.パルスレーザ堆積法によりc-およびm-sapphire基板上にα-Fe2O3/Ta:SnO2二層膜をエピタキシャル成長させることで,c及びm軸方向に単一配向したα-Fe2O3光電極構造を作製した.結果として,m軸配向の方が光電流は大きく,c軸配向の方が光電流の立ち上がりポテンシャルは低いことが分かった.また,表面準位容量がc軸とm軸配向で大きく異なり,電解液と接触した際に形成される表面終端構造や酸素原子密度の違いによるものであることが強く示唆された. 二つ目に同周期内の元素傾向を調べるため,イルメナイト型構造MTiO3 (M = Mn, Fe, Co, Ni) の薄膜合成と光水分解能について研究した.パルスレーザ堆積法によりTa:SnO2/m-sapphire上にMTiO3薄膜を作製した.結果として,放射光を使用した実験と第一原理計算の両者から,MTiO3の電子構造を明らかにした.そして電子構造の特徴に由来する,水溶液中での光電流-電圧特性の違いを観測した.加えて,光電気化学インピーダンス測定から表面準位やエネルギーバンド構造を考察した.
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