研究課題
特別研究員奨励費
本年度は研究の新たな展開に向け、受入研究者らの助言を踏まえて以下の作業を行なった。①身分論に関わる研究史を整理するとともに、藩同士の婚姻・交際関係や藩の歴史・地域性などの理解を深めるために愛知県田原市、福井県福井市・大野市、大阪府岸和田市、兵庫県姫路市、愛媛県宇和島市・大洲市などで史料調査を行なった。そしてこれらの成果を踏まえながら、諸藩の蘭学研究のあり方を考察した。さらに蘭学者弾圧事件をめぐる各藩の対応を事例に、蘭学の歴史的特質を近世身分社会や幕藩権力との関係性の中で考察した。②小関三英と渡辺崋山の蘭書翻訳・理解の過程や特徴を比較検討し、蘭学を受容し世界観を形成する過程で、漢学がどのような役割を果たしていたのかを考察した。以上の研究成果のとりまとめは終了しており、次年度に発表を行なう予定である。三年間の研究において、筆者は①蘭学者が同時代の社会においてどのように生き、何を考えていたのか、②それが蘭学的知見に基づく世界観や思想とどのように結びついているのか、その連関の解明を目指してきた。特に渡辺崋山を事例に、19世紀の藩をめぐる危機的状況や学問・思想・文化の動向と、蘭学研究およびそれに基づく世界観との有機的な連関を具体的に明らかにした点は本研究の成果と言えよう。これらの成果を踏まえて「藩士の蘭学」という研究視角を得ることができ、関連する諸資料を収集することができた。だが現在の近世史・蘭学史研究の枠組みを見直し、新たに進展させるためには未だ不十分な点は多い。特に儒教の思想内容そのものに関わる理解を深めることと、江戸屋敷論など藩の社会経済史的な位置づけの解明は不可欠である。また「西洋」「東洋」「世界」「天下」など、分析用語の見直し作業が残されている。これらの課題については、今後の研究を通して克服していきたいと考えている。
28年度が最終年度であるため、記入しない。
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『洋学史通信』
巻: 28号 ページ: 4-5
巻: 28号 ページ: 2-2
『日本歴史』
巻: 818号 ページ: 101-104
『書物・出版と社会変容』
巻: 19号 ページ: 5-41
『歴史学研究月報』
巻: 670号 ページ: 3-4