研究概要 |
国際コンソーシアムにおいて、類人猿あるいは霊長類の染色体としては世界で初めてチンパンジーの22番染色体(PTR22)の完成配列を決定し、そのヒト相同染色体であるヒト21番染色体(HSA21)との間で種間比較を行った。本研究の目的は、ヒトとチンパンジーの染色体塩基配列を比較することによって、約500万年前にヒトとチンパンジーが分岐した後に、それぞれの系統において生じてきたゲノムの構造変化の詳細を明らかにすることである。両ゲノムは塩基配列レベルでは僅かに1.23%程度しか異なっていないことを同コンソーシアムが先行研究(Fujiyama et al.,2002)で明らかにしていたため、概要配列ではなく高精度の完成配列の形でチンパンジーゲノム配列の決定を行うことが必要であると考えられた。しかし、そのためには膨大な作業が必要になるため、まず染色体レベルでの解析を行うことにし、同様のメンバーで構成された国際コンソーシアムによってその完成配列が決定されたヒト21番染色体(Hattori et al.,2000)の相同染色体を解析の対象に選んだ。配列決定の結果、(1)PTR22はHSA21よりも約1%小さい、(2)多くの挿入・欠失(INDEL)が存在し、短いものほど頻度が高い、(3)300bp以上の長さの挿入は、大部分が散在性反復配列の挿入によるものである、(4)HSA21、PTR22それぞれで偽遺伝子の挿入が見られる、(5)たんぱく質をコードしている遺伝子の83%でアミノ酸置換が起きている、(6)インターフェロンαおよびγ受容体などの免疫系遺伝子において、転写レベルでの発現にHSA21とPTR22の間で有意に異なっている、といったことが明らかになった。これらの比較結果から、ヒトとチンパンジーの間には多くの相違が存在し、将来、表現型に対応するヒト固有遺伝情報が発見される可能性が高いと考えられる。
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