研究概要 |
本研究課題では、MHC領域におけるゲノム進化のメカニズムを明らかにするために、(1)種の分岐点に位置し、進化学的に興味深い生物種(チンパンジー、アカゲザル、ブタ、ラット、ウズラ、ニワトリ、ニジマス、サメ)のMHC領域のゲノム塩基配列を決定し、得られたゲノム塩基配列と既知の塩基配列情報を含めたデータベースを構築し、比較ゲノム解析に重要な情報を抽出すること、(2)ゲノム4倍体化直前にヒトの祖先と分岐した頭索動物(ナメクジオウオ)におけるMHC祖先領域のシークエンシングをおこなうことにより、ヒトから線虫、酵母までの幅広い生物種におけるMHCの進化、形成の分子機序、およびゲノム4倍体化の過程を上記の解析法にて総合的に明らかにすることを目的とした。その結果、これまでに合計14.8Mb(ヒト:3725kb,チンパンジー:1750kb,アカゲザル:3285kb,ブタ:979kb,ラット:3828kb,ウズラ:179kb,ニワトリ:243kb,ニジマス:209kb,サメ:271kb;ナメクジウオ:511kb)のゲノム塩基配列を決定した。これらのゲノム塩基配列をもとに比較解析をおこなった結果、生物種間における基本的な遺伝子構造は大まかには保存されているが、それぞれの生活環境に適応するためのMHCやMHC関連遺伝子のbirth and deathにより形成されてきたこと、MHCクラスI領域におけるヒトとチンパンジーの多様性は1.4%であったこと、アカゲザルのMHCクラス1遺伝子座数はヒトやチンパンジーの3倍有していたこと、MHC遺伝子の誕生は脊椎動物の誕生時期と一致すること、哺乳類のMHC領域の誕生には、大規模なゲノム再編成が必要であることを明らかにした。さらに、ゲノム配列の蓄積とともにMHC統合データベース(M-integra)の開発も進めており、これまでにMHC領域の遺伝子地図、Unigeneや完全長cDNA配列との相同性解析結果、多様性プロファイル解析結果の視覚化に成功した。
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