研究概要 |
本研究の目的は、唇裂・口蓋裂患者を持つ日本人家系180家系を対象として、候補遺伝子の遺伝子多型を用いた伝達不均衡テスト(TDT)と相関研究を行い、疾患発症に関連する遺伝子を同定することにある。まず、GABA代謝に関与するグルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子(GAD67)において新規のSNPを同定し、収集した家系を対象に症例対照研究とTDTを行ったところ、有意の相関(P=0.00098)を認めた(Am J Med Genet, in press)。次に、環境要因として疾患発症との関連性が指摘されているダイオキシンの代謝に関与するARNT遺伝子のSNPを用いて、症例対照研究とTDTを行ったところ、有意の相関(P=0.0012)を認めた(Am J Med Genet, in press)。以上は、今までに報告されていない新しい知見である。一方、症候性唇裂・口蓋裂であるvan der Woude症候群家系におけるIRF6遺伝子変異の検索を行い、通常のエキソン・シークエンス法やFISH法では検出が困難な遺伝子欠失を見出した。さらに、家系調査を行うことによって、非症候性口蓋裂の一部がIRF6遺伝子の変異に起因していることを示唆した(J Hum Genet, in press)。今回の研究結果は、唇裂・口蓋裂の発症機構と修飾環境因子について大きな示唆を与えるものであり、将来的に本症の予防法の開発につながることが期待される。さらに私たちは、多因子患者の相関研究に用いるための新しい複数SNPの統計学的解析法を考案した(論文投稿中)。この方法は、唇裂,口蓋裂にも応用可能と考えられる。
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